眠らない島

短歌とあそぶ

2015-01-01から1年間の記事一覧

川野里子  『七十年の孤独』

戦後七十年と言われた一年が終わろうとしている。長い一年たった。世界はますます混迷を深めている。どんなことも語りづらかった秋の終わり、川野里子の『七十年の孤独 戦後短歌からの問い』に出会えたのは閉塞感の強まるなかでは、ある種の清涼感を与えら…

小川佳世子  第二歌集『ゆきふる』

なかぞらはいずこですかとぜひ聞いてくださいそこにわたしはいます 小川佳世子は未来短歌会の希有な歌友である。このたび待望の第二歌集が出版された 。 歌集を読みながら、なんとなく身が軽くなるような気持ちになった。平易な口語がかろやかな感情を誘い出…

島田幸典  第二歌集  『駅程』

雪暮れの巷にひとつともしびを溢れしめたりATMは 島田幸典の第二歌集『駅程』を読んだ。第一歌集より十年。満を持しての発刊である。秀歌ぞろいで、何処から読んでもまったく瑕疵はない。どの歌を取り上げても十分な評価が得られる歌ばかりなので、あえて…

楠誓英 『うた新聞12月 今月のうたびと 』を読む

『うた新聞』12月号掲載『今月のうたびと』に登場している楠誓英の連作『薄明をくぐる』を読んだ。 この連作で楠が新しい展開を見せており、新鮮な感銘を受けた。今までの文語調を主軸にしながら、柔軟な口語調を織り込むことでより自由で厚みのある表現…

江戸雪  第六歌集  『昼の夢の終わりに』

北浜のインド料理の店までのとちゅうで雨が降りだしていて 『昼の夢の終わり』をここ数週間、何度も繰り返し読んだ。繰り返し読めば読むほどに心地の良くなる歌集だった。どの歌にも心の風船があって、柔らかくふくらんでいるような空気感がある。そして大阪…

桂保子 第四歌集 『天空の地図』

『天空の地図』は桂保子さんの四冊目の歌集である。桂さんは『未来』の先輩であり、いつも美しく溌剌とした姿を眩しく見ていた。『未来』の毎月の誌面でも端正でありながら、ゆったりとした詠いぶりにおのずからなる品位が香る歌風に多くのファンがある。 …

三島麻亜子 第一歌集 『水庭』

取り急ぎと書かれしままに夏過ぎて秋過ぎてなほ置かれたる文 三島麻亜子の第一歌集『水庭』を読んだ。三島は「短歌人」所属の歌人である。 端正な文体のなかに、暮らしのなかに流れる時間をしなやかに捕らえた歌が印象的だった。返信をしようとして、認めた…

『評伝・河野裕子 たっぷりと真水を抱きて』 永田淳

「評伝・河野裕子 たっぷりと真水を抱きて」を読んだ。 河野裕子の出自からその最期の日まで、息子永田淳が膨大な資料や調査を渉猟して丹念に書き進めている。この評伝から、歌人河野裕子がどのようにして誕生したか、その秘話を存分に知ることができた。ま…

小谷博泰 第八歌集『昼のコノハズク』

わが心の内にある村わが心の内にある町ありてさびしき 小谷博泰の第八歌集を読んだ。この歌集には旅の歌が多く収録されている。 いうまでもなく旅先の町は異郷である。異郷を訪ねることは日常の空間から離れることになるが、その異郷にもまた、つつましく生…

『京大短歌21号』 時間の様相

京大短歌21号は充実した内容だった。企画の吉川宏志特集は六冊の歌集を考察し、その軌跡を丁寧にたどっている。また、歌集にはない初期歌篇を収録しており、貴重な資料となっている。 さらに、吉岡太朗の批評会記録が掲載されていた。所用があり、参加でき…

たなかみち 第二歌集 『具体』

休止符のやうな曲線立たしめて死よりも静かに青鷺一羽 たなかみちさんは尼崎在住の歌人であり、兵庫県歌人クラブ幹事をなさっている。歌は、歌人クラブの会報や年間歌集などでお見かけしてきたが、とても平易な言葉のなかに清冽な抒情が感じられる作品が多く…

川本千栄  第三歌集『樹雨降る』

いつも誰かとつながっていたいという気持ち無くて見ている片脚の鷺 川本千栄第三歌集『樹雨降る』を読んだ。川本千栄といえば論客というイメージが強くある。歌は残念ながら第一歌集『青い猫』第二歌集『日ざかり』を通して読む機会がなかった。断片的には目…

岩尾淳子  『いちどだけ生まれた』

ここで自分の本の紹介をするのは久しぶりで少々照れくさい。 私の父は今年八十六歳。七十年前は十六歳であった。昭和二十年、既に戦局は絶望的であったにもかかわらず、無謀にも少年志願兵として自らすすんで入隊している。そのころのことについて、父はほと…

春野りりん 第一歌集 『ここからが空』

ふくびくうを花野としつつ朝の気は身のうちふかくふかくめぐりぬ 春野りりん第一歌集『ここからが空』は、からだの全ての筋が解きほぐされて浮かび上がるような心地良さに満ちている。自己の存在を、自意識の枠から解き放ち自然や地球さらには宇宙まで包含…

佐藤弓生  第四歌集  『モーブ色のあめふる』

はじめての駅なつかしい夏の午後きいたことのない賛美歌に似て 佐藤弓生さんの歌集をなんども開いてしまう。今回の『モーブ色のあめふる』は第四歌集ということで、これで佐藤さんの歌集を四冊いつでも手にとって読むことができるようになった。佐藤さんの…

中家菜津子 第一歌集 『うずく、まる』

一本のひかりの道に手をのばすさっき真冬の葱をつかんだ 中家菜津子は「未来」の加藤治郎選歌欄の仲間である。短歌だけではなく、現代詩の領域でも活躍している才気あふれるこの新人をまぶしく眺めてきた。新鮮な発想の歌に目を奪われることが多かったが、今…

中津昌子  第五歌集『むかれなかった林檎のために』

萩だろうようやく暮れ来し水に乗りすこし明るみながらゆくのは 中津昌子 第五歌集『むかれなかった林檎のために』を読んだ。この歌集からふたたび仮名遣いを現代仮名遣いにもどしたという。そのためか、歌集全体に言葉の清潔感が流れているように思える。 水…

前川明人 第七歌集 『曇天』

碧天に梟首のごとき石榴の実残酷だったなああの戦争は 前川明人は未来短歌会の仲間である。このたび出版された歌集『曇天』は第七歌集であり、未来のなかでも歌歴は長い。前川は1928年に長崎市で生まれている。原爆が投下されたときは17歳。私は、未来…

河野美砂子  第二歌集 『ゼクエンツ』

雨雲をはぐくんでゐる森としてゆれやまずあり青葉の御所は 河野美砂子の第二歌集が出版された。待ちにまった歌集である。第一歌集から十年あまり。十年はやはり長い。この作者にして、第二歌集まで十年を要することに驚きを感じる。自身の歌への妥協を許さな…

土岐友浩 第一歌集 『Bootleg』

クーラーを消してお米を磨いでいる今日という一日のほとりに 土岐友浩の歌にずっと惹かれてきた。今回、待望の第一歌集が出て、至福感に満ちた言葉の世界にゆったりと浸ることができた。これから何度も手にする歌集となるだろう。まだ、読み切れてはいないが…

『葛原妙子論集』 現代短歌を読む会編

「現代短歌を読む会」から葛原妙子論集が出た。前回の山中智恵子論集の刺激的な論考が記憶に新しい。冊子の表紙には尾崎まゆみ、彦坂美喜子、山下泉、吉野亜矢、楠見朋彦の五名の名前が並んでいる。難解派といわれる葛原妙子の短歌をこういった逸材が揃って…

真中朋久  第五歌集『火光』

地下のつとめ地上のつとめこのさきも引き裂かれつつ生きてゆくべし 真中朋久の第五歌集「火光」を読んだ。読めば読むほどに、思考の森深くに誘い込まれ、その深い精神世界に圧倒された。あげるべき秀歌はいくらでもある。しかし、ここではかなりかたよった…

塩野淑子  『合歓街道』

乳いろの湖霧(うみぎり)かぜに流れゆき岸の枯れ葦ぬれて撓めり 塩野淑子さんは未來短歌会、桜井登世子選歌欄に所属されている。後書きを読むと、1993年に夫君を亡くされ、それをきっかけに短歌を始められたという。歌作を始めてから、20年近い歳月の…

ますいさち 第一歌集 『風船蔓』

春の光揉みこむようにゆれゆれて庭の白梅発光したり 「風船蔓」の作者ますいさちは、未來短歌会に所属し、道浦母都子選歌欄の会員である。歌集を読み、この作者の資質と師である道浦母都子と通じるものを感じた。それは人生に対する前向きのエネルギーである…

小谷博泰 『短歌つれづれホームページ』

小谷博泰さんの『短歌つれづれホームページ』を読んだ。これまで、小谷さんのホームページはちらちらと覗いてきた。小谷さんが所属する結社『白珠』が掲げる「知的抒情」という理念に魅力を感じて、方々あたっているうちにこのホームページにたどり着いた。…

美濃和哥 歌集 『わが網膜を軍馬は奔(はし)る』

ほの白き死者を思えば凍てつきしわが網膜を軍馬は奔(はし)る 美濃和哥さんの歌集『わが網膜を軍馬は奔(はし)る』は美しい歌集だ。林みちよさんの奥行きのある絵と美濃さんの短歌との28首の歌とのコラボレーションで構成されている。 手にとって、その…

真鍋三和子 第六歌集 『ジャカランダの花』

『ジャカランダの花』は真鍋三和子さんの第六歌集である。真鍋さんは未來短歌会で長く近藤芳美先生に師事してこられた実力派の歌人である。 この歌集は二〇〇五年以降の一〇年間の作品から、五〇七首を選び編集されている。最近の歌集は歌数が三〇〇程度で…

『羽根と根 2号』

『羽根と根 2号』が届くのを心待ちにしていた。最近、若い人たちの同人誌の発刊が活発で、掲載されている作品群の新鮮な感覚に魅了されることが多い。若いだけあって、文体がまだ不安定なところもあるが、それも含めて現状に甘んじない挑戦する気迫に溢れて…

田中濯  第二歌集 『氷』

ハンカチが昨日と同じままだった 結句のちから午前には足らず 田中濯 第二歌集『氷』を読んだ。何度も読み返した。頭の芯にこたえるものがあって、読み返さずにはいられなかった。おそらく、そうさせるものはこの歌集の「悲しみ」なのだろう。巻頭に引いた…

『遊子』 第21号

『遊子』第21号を読んだ。特集として組まれた久野はすみ歌集『シナマ・ルナティック』評論はさまざまな観点からこの歌集を読み解いており、あらためてこの歌集の魅力にふれることができた。特にゲストの江戸雪の評は久野の特質を正確に言い当てており、納…