眠らない島

短歌とあそぶ

岩尾淳子  『いちどだけ生まれた』



ここで自分の本の紹介をするのは久しぶりで少々照れくさい。


  私の父は今年八十六歳。七十年前は十六歳であった。昭和二十年、既に戦局は絶望的であったにもかかわらず、無謀にも少年志願兵として自らすすんで入隊している。そのころのことについて、父はほとんど自分からは語らなかった。ところが父なりに自分の死期が近いことを悟り、その記憶を語り初めたのである。


 過去とは記憶のなかにこそあるのであり、父の記憶が消える日がくれば、すべては風のようにあとかたもない。そう思うと一介の市井の人間の生涯ではあっても書き残すことでそこにまつわる幾人かの方々の人生にも光をあてる事が出来るのではないか。戦争をくぐり抜けた人々がどのような生きかた、或いは死に方をし、何に苦しみ、何に心を動かされたのか知りたい。そしてもういちど言葉を与えたい、是非そうしたいという思いに駆られた。


 父からの聞き取りは、予想した以上に困難であったが、それを再構成する過程は自分が七十年前に生き返ったように高揚感があった。散文ならではの物語性のおもしろさを味わうことができたよう思う。