眠らない島

短歌とあそぶ

2014-01-01から1年間の記事一覧

浅羽佐和子  第一歌集 『いつも空をみて』

浅羽佐和子は『未來』加藤治郎選歌欄での仲間である。2009年に未來年間賞に輝き、独自な現実主義的な歌風は「未來」の本流かとも思える。その言葉は、やわらかい口語体でありながら、自身の生な現実の細部に密着するような強さとしなやかさを備え、現代…

『穀物』 創刊号

先週の日曜日、待望の『穀物』創刊号が手に入った。それから毎日、鞄に入れて通勤したのでかなり表紙がいたんでしまった。シンプルな板壁の写真のセンスがいい。 中身はもちろん期待したとおりの作品がぎっしり入っている。個性の違う八人の作者の20首連…

大森静佳 『河野裕子の歌鏡』(二)

「梁」87号に掲載されている大森静佳の河野裕子論が注目されている。とくに今回は『ひるがお』『桜森』という河野裕子の骨格が形成された歌集への論考であり、貴重な資料になっている。大森は、この二歌集を支える河野裕子の主題形成の過程を、時代背景を…

渡辺良 第四歌集 『日のかなた』

『日のかなた』は渡辺良の四番目の歌集である。後書をみると「未来」入会が昭和五二年とあるから、歌歴は既に三十年以上になる。 おおいなる欅のもとに佇ちおれば思惟の青葉が戦ぎはじめる 二〇〇六年に『未来』に入会し、未来誌を購読するようになった頃か…

武富純一  第一歌集『鯨の祖先』

武富純一第一歌集『鯨の祖先』を読んでいて、懐かしい気持ちに誘われた。それは若い頃から軽く反発しながらも、どうしてか惹かれて何度も読み返してしまう石川啄木の歌と通じるものがあったからである。後書きをみると果たして、大学時代に石川啄木の歌に親…

服部真里子 第一歌集 『行け広野へと』

服部真里子さんから待望の第一歌集が届いた。掌に載るほどのかわいらしいサイズ。装丁にも目を奪われた。緑と赤に縁取られた額縁のなかに金色の挿絵が美しい。まるでクリスマスカードのようだなと思ったものだった。そして作品は装丁をしのぐ美しさである。…

嵯峨直樹 第二歌集『半地下』

花まつり人から人へ渡されるアルミニウムの硬貨のひかり 現代社会において何を抒情するのかとはなかなか困難な課題である。嵯峨直樹の第二歌集『半地下』は、短歌表現で現代社会の様相にどれだけ迫真できるかという試練を自ら突きつけている。それは単に題…

『神大短歌』 vol.1

わたしの出身校である神戸大学に短歌会が発足した。そしてこのたび、機関誌第一号が発刊されたことをこころから喜びたい。後輩たちの活動を活字媒体で読むことは感無量である。 冊子には、短歌定型に出会ったときの躍動感がいきいきと流露していてスピード…

田丸まひる  第二歌集 『硝子のボレット』

田丸まひるさんは未來短歌会に入会してたった一年で未來賞を掠ってしまった。田丸さんの登場は、『未來』にとって衝撃的な出来事だったように思う。同じ加藤治郎選歌欄に籍を置いていたこともあり、掲載される歌は毎月読んできた。定型に収まりきれない言葉…

『鱧と水仙』43号 鱧

『鱧と水仙』第43号を読んだ。 巻頭三十首の近藤かすみ「タルトを崩す」は心地の良い一連であった。三十首のなかに、自身が生きてきた家族とのながい時間を詠み込んでいる。内容からすればかなり重い情感を誘い出すはずなのに、近藤の力を抜いた文体が家…

守中章子  第一歌集 『一花衣』

守中章子さんは2013年度未來年間賞を受賞された実力派の歌人である。巻末には手厚い岡井隆先生の批評文が収録されており、この歌集の完成度の高さを知ることができる。内容については岡井先生の精緻な文章に言い尽くされているので、これから書くことは…

平井軍治 第二歌集 『平井軍治歌集 』

凄まじき羽音のこして刈田より飛び発ちて闇濃くする土鳩 除雪車の回転灯がオレンジの明かりを投げて玻璃窓よぎる 「平井軍治歌集」を読んだ。平井さんの第二歌集であり、2006年から2013年までの作品を収めている。平井軍治さんは青森市に在住されて…

野村詩賀子 第三歌集 『地蔵堂まで』

わたくしは水 きょうの水 近づけば近づくほどに夏の逃げ水 野村詩賀子第三歌集「地蔵堂まで」を読んだ。歌集のなかには母を看取り、さらに愛娘を失うという過酷な体験をする一〇年あまりの時間が流れている。家族の死はきわめて個別的な体験でありながら、…

江戸雪 第五歌集 『声が聞きたい』

ありがとうはきれいな言葉うつむいて青い手袋ゆっくりはめる 江戸雪といえば、強い情念を抱えた歌人という印象がある。今回の歌集でもやはり強い自我意識が歌集全体に量感をもたせているように思う。ただ、今までの歌集とちがって言葉と感情がうまく絡み合…

岩田亨 『斎藤茂吉と佐藤佐太郎』

短歌に多少とも本気で関わりをもとうとするならば、斎藤茂吉と佐藤佐太郎という二人の巨星の洗礼を受け、そしてどう越えていけるのかは避けては通れない。近代短歌史に歴然と輝くふたりの個性はそれぞれの短歌論のなかに展開されているもののその全体像に迫…

楠誓英 第一歌集 『青昏集』

楠誓英は第1回現代短歌社受賞した若き歌人である。賞を受賞し、歌集が出るということで、楽しみにしていた。読み始めて重い衝撃が走った。 大地震に崩れた家の天井に十二の吾がまだ住んでゐる 亡き兄がそこにゐさうな気配して父の鞄に声かけてみぬ 来年で阪…

石川美南×服部真理子 「ノーザン・ラッシュ」

夏のギフト夏に売られる正しさの寝息でグリーンイグアナ眠る 服部真理子 眠りたくなつて眠つて目が覚めて食べる排泄する歩き出す 石川美南 石川美南さんと服部真理子さんによる「ノーザン・ラッシュ」は二人で爬虫類喫茶に行き、短歌を作るという楽しい企画…

永守恭子 第二歌集『夏の沼』

どこまでも伸びてゆく雲追ひかけて胸に小さきこころざし生る 最近、作者独自の美意識や世界観により緻密に構成された歌集を読むことが多かった。そんな中で手元に届いたのが結社「水瓶」所属の永守恭子さんの「夏の沼」であった。ささやかな日常を詩的に昇華…

木下こう  第一歌集  『体温と雨』

木下こうさんの歌集を読んだ。ノスタルジッックな言葉が繊細な感覚で使われて、修辞も行き届いている。現実と付きすぎず、離れすぎない距離感を保ちながら、幻想的なそして懐かしいような歌の物語が広がってゆく。口語と淡い文語とを上手く織り交ぜて定型に…

吉岡太郎 第一歌集 『ひだりききの機械』

吉岡太郎の歌を読んでいると、希有な純粋さがあふれているようで胸打たれる。それは、あたかも宮沢賢治の世界に通じる悲しみや慈愛のようなものがあり、そこに感動しているのかもしれない。現実世界では、そういう無垢さを持っていることがある種の欠落のよ…

小畑庸子  第九歌集 『白い炎』

「水甕」の小畑庸子さんから歌集をいただいた。「水甕」は尾上柴舟に発する結社であり、百年以上の伝統をもつ。この歌集を読み、あらためて伝統のなかで鍛錬された歌風ということを感じさせられた。尾上柴舟は明治三十五年、『叙景歌』を世に出している。ち…

尾崎まゆみ  第六歌集 『奇麗な指』

わたくしはやさしさに包まれてゐる細胞のひとつひとつの声に この作者が「わたくし」と歌い出すとき、その一人称は強靱な強さと、広がりを持って立ち現れる。この「わたし」は現実性を捨象し、抽象化された精神性そのものであるように聞こえる。シンプルな…

松村正直 第三歌集 「午前三時を過ぎて」

浴室に妻の使いし石鹸の香りは満ちて湯舟につかる 松村の文体は明晰で、言葉に過剰な意味を負わせない。そのシンプルな文体によってすくいとられる具体物が光沢を放っている。この歌では「石鹸」が一首の中にゆたかな情感を立ち上げている。この歌集を読ん…

吉岡生夫『狂歌逍遥 第2巻 近世上方狂歌叢書を読む』

「うた新聞」4月号、巻頭評論「前田夕暮、口語自由律の探求」(山田吉郎)、そして新連載の「文語定型~むかしいま」(島田幸典)を興味深く読んだ。前者は文語定型から、口語自由律へ進んだ前田夕暮、そして、ふたたび、文語に帰ってゆくその軌跡を丹念に…

「鱧と水仙」第42号  水仙2014

毎回、「鱧と水仙」を読むのを楽しみにしている。この度の第42号も期待を裏切らない、充実した内容であった。参集している同人が、それぞれ個性的であり、こなれた文体で丁寧に詠み込まれている作品群は完成度が高く、心地よく魅了された。 巻頭を飾る小…

滝下恵子 第三歌集 『葡萄むらさき』

どこまでがしんどくなくてどこまでがしんどいといふのかちよつとしんどい 滝下恵子さんから、「葡萄むらさき」という美しい歌集をいただいた。次々と襲う病気と闘いながら、悲観的な印象とは程遠く、歌は闊達で自由自在である。どこか吹っ切れた歌いぶりに…

岩切久美子 第二歌集 『湖西線』

去年の冬、琵琶湖の野鳥センターを訪れて、忙しそうに泥を突いて、餌をあさっているコハクチョウを間近見ることができた。いきいきとして、躍動感があり見飽きなかった。それで今年も是非見に行きたいと思っていたところ、思わぬ大雪でなかなか行けず、やっ…

山崎聡子 第一歌集 『手のひらの花火』

山崎聡子が「未来短歌会」に入会し、私たちの加藤治郎選歌欄に加わったのは去年の暮れのことだった。『未来』誌上で山崎の歌を初めて読んだとき、軽い衝撃があった。しなやかな感情の流露と、力を抜いた言葉の構成にまねのできない確かな骨格を感じることが…

浦河奈々 第二歌集『サフランと釣鐘』

浦河奈々さんの第二歌集「サフランと釣鐘」を読み、しばらく経った。そして今朝、起きてみるとソチオリンピックで、羽生結弦君が金メダルに輝いて、さわやかな笑顔がテレビに映し出され、その演技が何度も流れている。それをみながら、浦河さんの歌集の掉尾…

沙羅みなみ 第一歌集『日時計』

沙羅みなみの待望の第一歌集が上梓された。沙羅みなみは結社誌「未来」の中でも傑出した才気を持った歌人として長く注目を浴びてきた。毎月、掲載される歌は二首か、三首。そのささやかなたたずまいもこの歌人にふさわしいと思えた。沙羅の歌風の大きな特色…