眠らない島

短歌とあそぶ

2017-01-01から1年間の記事一覧

高田ほのか 第一歌集 『ライナスの毛布』

光る窓を数えていけばビル群で繋いでいけば海図のようだ 『ライナスの毛布』は、歌集という既成の枠組みをはみ出した発想から生み出されているように思う。巻頭の「メリーゴーランド」は120首もの連作からなる虚構の物語。どこにでもいる若い三人の恋愛の…

林和清 『去年マリエンバードで』

さくらばなひとつびとつは蔵でありむかしのひとの名前を蔵 ( しま )ふ 林和清の歌を読んでいると、さりげなく表現が抑えられて詠まれていても、そうであるほど内心から不安が立ち上がってくる。それは暗い高揚感とでもいうか。自分の中にある邪悪なものをふ…

近代短歌を読む会 第13回 『斎藤茂吉歌集』その1

三回目の斎藤茂吉になった。 岩波文庫『斎藤茂吉歌集』をテキストにして『つゆじも』から『暁紅』までの9冊を読んだ。メンバーの中には、このアンソロジーではなく、一冊ずつ全てを読破してきた人もいてなかなかハードな会になった。 〇全体の感想 今回は歌…

やすたけまり 『 みちくさフィールドノート  むしの巻 』

そういう日なんだろうけどコミスジと行くさきざきの道で出会った やすたけまりの歌を読んでいると、いつのまにか不思議な空間に連れていかれる。そこは、日常の世界からはそんなに遠くないのに、普段は見たり、触れたりすることができない世界。日常性の湿り…

『柊と南天』 第0号

冬の陽ざしのように簡潔で暖かな冊子がとどいた。『柊と南天』は「塔」短歌会のなかの同人誌らしい。永田淳さんの呼びかけで集まった昭和48年生まれのメンバーで発足したとある。まだ準備期間ということで今回の冊子には0号とある。掲載されている5人の…

近代短歌を読む会 第12回 斎藤茂吉 『あらたま』

ものの行きとどまらめやも山峡の杉のたいぼく寒さのひびき 今回は第二歌集『あらたま』を読んだ。大正2年『赤光』を出して歌壇を越えた圧倒的な評価を得た茂吉はその後、力強く自分の歌風を確立する。 斎藤茂吉といえば、山形の風土、自然と密接なつながり…

近代短歌を読む会 第11回 斎藤茂吉『赤光』

にんげんの赤子 ( あかご )を負 ( お )へる子守居りこの子守はも笑はざりけり 「赤光」が発行されたのは大正二年。このころ歌壇のなかで斎藤茂吉の名前はすでにかなり知名度があったようだ。第一歌集を出すにあたって、茂吉は焦らず、環境が十分に熟するのを…

田丸まひる 『ピース降る』読書会報告 2

会場発言 1 ・今の自分から読むと懐かしい感じがする。 30代女性の焦燥感があふれている。 どう生きるのか、どう選択するのかという葛藤がある。 恋人から「君」、あなた」に変遷してゆくなかで、愛に届いてゆく。 ・自分は何をやっているのかという切実…

田丸まひる『ピース降る』読書会報告 1

11月11日(土)に行われた、田丸まひる『ピース降る』、岩尾淳子『岸』合同読書会の報告をします。 ここでは『ピース降る』についての記録です。 レポーター 1 〈はじめに〉 「ピース降る」というライブアルバム それぞれの生活や環境の中で「ピース降る…

岩尾淳子 第二歌集『岸』読書会 報告2

会場発言 1 ・第一歌集と比べて 口語縛りがなくなった。茫洋としたところがなくなった。日常詠、職場詠、 先生への挽歌などリアリズムの歌が入った。 皮膚がんに頬うしないし須之内さんに大切な頬もどりますよう ・人を分かつ生と死に触れる。読み解けない…

岩尾淳子 第二歌集『岸』読書会 報告1

11月11日(土)に、田丸まひる『ピース降る』・岩尾淳子『岸』合同読書会を行いました。ここでは、『岸』読書会の報告をいたします。 レポーターからの報告 〇レポーター 1 〈はじめに〉 『岸』を読む現在とは、時代性もあって、表現についてそれぞれの…

岡崎裕美子  第二歌集 『わたくしが樹木であれば』

もう風の方向なども見ないまま吹かれっぱなしの砂浜に立つ 生きる場所とはいったいどこにあるのだろう。それはどのように生きるとかではなくて、生まな命のありかのようなもの。そういう場所があるとすれば、どんな瞬間に成立するのか。 この歌集を読みなが…

山本夏子 第一歌集 『空を鳴らして』

前をゆく豆腐屋さんの荷台からこぼれて落ちる滴のひかり 歌を詠むとき、私たちはどのようにして言葉を始めるているのだろう。歌のはじまるとき、どんな構えをしているのか。山本夏子『空を鳴らして』を読み終わって、これでよかったのかと不安な気持ちになっ…

勺禰子 第一歌集  『月に射されたからだのままで』

風の強さは風の気持ちの強さゆゑ吾も立ちたるまま風に向かふ 勺禰子は短歌人所属の歌人。このたび待望の第一歌集が出た。 歌集を読みながら、まさに強い風圧を受けているような動揺に揺さぶられた。この風の強さはもちろん、作者の気持ちの強さなのではあろ…

松村正直 第4歌集 『風のおとうと』

パンを焼くひとが奥よりあらわれてパン売るひとと言葉を交わす 松村正直の歌を読んでいると身体の力がほぐれてゆくようで、なんとも心地良い。第四歌集『風のおとうと』を何度か読んでみたが、それは読みたくさせる適度な軽さに魅了されるからだろう。こう…

谷とも子 第一歌集 『やはらかい水』

やはらかい水を降ろしてまづ春は山毛欅の林のわたしを濡らす このたび、「未来短歌会」の歌友である谷とも子の待望の第一歌集が出版された。 谷とも子の歌は、今まで折に触れ読んできた。読むたびに様々な表情を見せてくれるその歌風や題材の多彩さは大きな…

小谷博泰 第10歌集 『シャングリラの扉』

散り急ぐ並木の道を歩みきて堂島でホットサンドを食べる 小谷博泰第10歌集『シャングリラの扉』が出た。第9歌集『うたがたり』は2016年に刊行されているのでその間、わずか一年。その前の第8歌集『昼のコノハズク』も2015年に出ているので、こ…

大室ゆらぎ歌集 『夏野』

春の雨ゆふべに餓ゑてゆでたまごふたつを蛇のやうに吞み込む 大室ゆらぎ歌集『夏野』を読んだ。あとがきに。265首とあったので、驚いてしまった。読み終わった充足感が尋常ではない。圧倒的な世界の深さと美しさ、そして怖さの重量感に酩酊してしまった。…

白井健康歌集  『オワーズから始まった。』

天竜川を越えてひかりを払いのけ橋からぼくを覗き込んでる 巻頭に挙げた歌に立ち止まった。一人称で歌い出されていると思い込んで読み下すと、下句で、いきなり「ぼくを覗き込んでる」となり、ぐらりと感覚が揺さぶられる。では天竜川を越えてきたのは何だ…

遠藤由希 第2歌集 『鳥語の文法』

入り組んで降る雨のなかひとすじのさみしさは貫けり怒りを 葉にならず星にもならずムクドリは集いて夜ごと糞を残せり 読み始めて、身動きのとれない圧力を感じた。作者と、作中の主体と、読者である私がストレートにパイプで連結されて、強い勢いで顔に水が…

「上終歌会 01」を読む 続き

ふゆごもりだれにもわからぬことだけをわかることとし手を掴む夢 仲西森菜 自意識の世界を、リアルに語っている。結句がとてもリアルで利いている。 どちらかと言えば乾いている君に月の明かりも近づいてくる 中村ユキ ゆっくり、溜ながらはいってくる文体が…

「上終歌会 01」

今日、帰宅すると、郵便受けに可愛らしい冊子がとどいていた。「上終歌会 01」とある。奥付には「協力 京都造形芸術大学 文芸表現科」。永田淳さん主宰の歌会か。さわやかな表紙絵に誘われて、つい最後まで読んでしまう。連作10首と個性的なエッセイ。若…

『子規歌集』を読む 近代短歌を読む会 第10回

〇 参加者の三首選 明治30年 ① 柿の実のあまきもありぬ柿の実のしぶきもありぬしぶきぞうまき 明治31年 ② やぶ入りの女なるらし子を負ひて凧 ( いかのぼり )持ちて野の小道行く ③ 物のけの出るてふ街の古館 ( ふるやかた )蝙蝠飛んで人住まずけり ④ 旅に…

原田彩加 『黄色いボート』

今日何を食べようかなあ生きているばかりの夜にすれ違う人 この歌に出会ってなんともいいようのない心の震えを感じた。それは感動といえば大げさになってしまう。さみしさや悲しさ、それもあるのだけど、それだけではない。今までこんなふうには言えなかっ…

田村広志 『岩田正の歌』

田村広志の『岩田正の歌』を興味深く読んだ。この本によって紹介され、丁寧に鑑賞されることで初めて岩田正の歌の魅力に触れた気がした。 ただ、興味深かったのは岩田正の思想的経歴をまとめた章である。昭和30年代の政治の季節の退潮ととともに、前衛短歌…

三田村正彦 第三歌集 『無韻を生きる』

スプーンの光る秋の日なだらかな坂道のやうなる気分 日常に流れてゆく時間をあるいは感情を、等身大のままの言葉でさしだすとき、こんなに自由に歌える。そんな清涼感を感じさせられる歌集だ。必要以上に、美化しない、あるいは、脱力しずぎない、そして諧…

田丸まひる 『ピース降る』

こころには水際があり言葉にも踵があって、手紙は届く 歌集をとおして言葉がこころの邪魔をしていない心地良さが通っているように思えた。とても気持ちの風通しがよい。何度か読んで、そのわけがなんとなく分かった。そのひとつには、切迫した自意識が少し後…

詩誌 『時刻表』 創刊号

神戸在住の詩人である、たかとう匡子が責任編集して雑誌『時刻表』が創刊された。20人余りの同人の作品が若々しく新鮮で楽しい。 ざっと目をとおしたばかりで、まとまった感想も書けないが、印象にのこったフレーズをメモしてみた。ずいぶん的外れなコメン…

寺島博子 第四歌集 『一心の青』

わがきのふけふにかかはることにして在りて在らざるほどか苦悩の 最近、文語と口語について考えたり、話したりする機会があり、気持ちがそこあたりに止まっていた。文語の効用とか、口語の特性とかいわれたりするが、結局はどちらも言葉であるからには、そ…

近代短歌を読む会 第10回 釈超空『海やまのあひだ』

釈超空 『海やまのあひだ』読書会 〇 参加者の三首選 葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。 この山道を行きし人あり 耳もとの鳥の羽ぶきに、森深き朝の歩みに、とどめたりけり 草のなか、光りさだまるきんぽうげ。いちじるしもな。花 群れゆらぐ たえまなく …