眠らない島

短歌とあそぶ

2019-01-01から1年間の記事一覧

『パンの耳』2号

松村正直さんが主催する「フレンテ歌会」。今年、三月に「パンの耳」創刊号の読む会に招いていただき、とても楽しい時間を過ごせて、いい思い出になった。次はどうかなと思っていたら、はやばやと2号が届いた。今回はメンバーの一首評もありさらに充実して…

近藤かすみ 第二歌集 『花折断層』

むかしより加茂大橋のほとりには廃園ありてひぐらしが啼く 近藤かすみの第二歌集『花折断層』の世界は言葉の熱量がほどよく適温であり、心地よく読むものの感情に寄り添ってくる。過剰さが削がれ、押しつけがましい主張やこれみよがしの修辞、あるいは美意識…

尾崎まゆみ 『レダの靴を履いて』

「レダの靴を履いて」は2010年7月から、2012年6月までほぼ2年間をかけて筆者がブログに綴った塚本邦雄の歌についての鑑賞である。ひとつひとつのコラムにはみずみずしく季節が流れ、筆者の暮らしの時間や空間がほんのりと香っている。なんともゆ…

五十子尚夏 第一歌集『The Moon Also Rises』

遠雷に微か震える聴覚のどこかにあわれバイオリン燃ゆ 五十子尚夏の『The Moon Also Rises』には多彩なノイズが溢れている。華やかな固有名詞の氾濫はこの作者が世界から聴き集めた美しいひかりの残響かも知れない。それは、世界をきららかに演出してみせる…

加藤治郎第11歌集『混乱のひかり』

栞紐はねのけて読む冬の朝 歌はひかりとおもうときあり 加藤治郎の第11歌集『混乱のひかり』はタイトル通り、ひかりに充ちている。冒頭に引いた歌には作者の歌に託する希望がひかりを生んでいる。混沌とした現代社会の現状に言葉で切り込むように挑みつつ…

近代短歌を読む会 第23回 齋藤史『秋天瑠璃』

いはれなく街の向こうまで見えてくる さよならといふ語をいふときに 齋藤史『秋天瑠璃』 「近代短歌を読む会」も今回で23回になる。 今年の5月から齋藤史の『魚歌』、『ひたくれなゐ』を読み継いできた。今回はその三回目にあたり『秋天瑠璃』を取り上げ…

松村正直『紫のひと』

てのひらの奥に眠れるわがこころ呼び覚まさんと強くこすりぬ この歌集は2017年から2018年の2年間に総合誌等の発表された作品だけを収録している。短い時間のなかで集中的に作られた歌群はたがいに共鳴し合あうことで、濃密な情感を醸している。それ…

門脇篤史 第一歌集 『微風域』

夕闇にジャングルジムはいくつもの立方体を容れて立ちをり 公園にさしかかったときだれでも目にするジャングルジム。子どもの遊具でありながらこれほど潔癖にその属性をぬぐい取られて、無機質に、そして美しく詠まれたジャングルジムの歌を知らない。ここに…

永田愛  第一歌集 『アイのオト』

永田愛の第一歌集「アイのオト」は実にうつくしい。短歌を作ることと、生きることが重なる悦びをまっすぐに伝えてくれる。これほど構えずに読ませる歌集がこの時代に可能なのかと驚きもあった。最近、歌集を読むときには、どうしても発想の斬新さや、鋭い表…

松村正直 『戦争の歌』

泥濘に小休止するわが一隊すでに生き物の感じにあらず 宮柊二『山西省』 松村正直『戦争の歌』は、読むものに歴史ということに思いを深く向かわせる力をもっている。それは戦争とは、歴史とは、文芸とは何なのかという、絶えざる問いかけを重ねる粘り強い松…