眠らない島

短歌とあそぶ

2014-05-01から1ヶ月間の記事一覧

吉岡太郎 第一歌集 『ひだりききの機械』

吉岡太郎の歌を読んでいると、希有な純粋さがあふれているようで胸打たれる。それは、あたかも宮沢賢治の世界に通じる悲しみや慈愛のようなものがあり、そこに感動しているのかもしれない。現実世界では、そういう無垢さを持っていることがある種の欠落のよ…

小畑庸子  第九歌集 『白い炎』

「水甕」の小畑庸子さんから歌集をいただいた。「水甕」は尾上柴舟に発する結社であり、百年以上の伝統をもつ。この歌集を読み、あらためて伝統のなかで鍛錬された歌風ということを感じさせられた。尾上柴舟は明治三十五年、『叙景歌』を世に出している。ち…

尾崎まゆみ  第六歌集 『奇麗な指』

わたくしはやさしさに包まれてゐる細胞のひとつひとつの声に この作者が「わたくし」と歌い出すとき、その一人称は強靱な強さと、広がりを持って立ち現れる。この「わたし」は現実性を捨象し、抽象化された精神性そのものであるように聞こえる。シンプルな…

松村正直 第三歌集 「午前三時を過ぎて」

浴室に妻の使いし石鹸の香りは満ちて湯舟につかる 松村の文体は明晰で、言葉に過剰な意味を負わせない。そのシンプルな文体によってすくいとられる具体物が光沢を放っている。この歌では「石鹸」が一首の中にゆたかな情感を立ち上げている。この歌集を読ん…