眠らない島

短歌とあそぶ

2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

西橋美保  第二歌集 『うはの空』

自転車で走るはやさで台風はやつてくるとふ たのしさうだな 西橋美保は兵庫県姫路市在住で「短歌人」所属の歌人である。この歌集は第二歌集ということである。 西橋美保のうたいぶりは自由でいきいきとした表情がある。だから、この歌集が一七年もの歳月が…

吉川宏志 第七歌集 『鳥の見しもの』

雨ののち冬星ひとつ見えており何の星座の断片かあれは うちがわを向きて燃えいる火とおもう ろうそくの火は闇に立ちおり 磔刑の縦長の絵を覆いたる硝子に顔はしろく映りぬ 錆ついた窓から見える風景だ どうしたらいいどうしたら雨 巻頭の連作をそのまま引い…

蝦名泰洋 野樹かずみ 『類人鳥』 全6巻

はね橋の近くの画家は待っている見えないものが渡りきるのを 泰洋 橋をこえ野をゆく風の絵筆そして ざわめきやまぬ麦畑かな かずみ 短歌両吟「類人鳥」は歌人の野樹かずみと詩人蝦名泰洋との合作の歌集である。このように二人で詠みあうのを両吟ということを…

櫟原聡 第七歌集 『華厳集』

店先に盛られし蜜柑の一山にあつまりてゐる日暮れのひかり 端正な文体のなかに透きとおるような清冽な詩情が流れる。歩きながらふと目にした一山の蜜柑にもひかりは当たり、そこに時間が生まれることで蜜柑は存在感をもって読者のまえに美しく差し出される。…

近代短歌を読む会第3回 若山牧水『死か芸術か』

第3回 若山牧水「死か芸術か」(大正元年刊) 〇参加者の3首選より 雪ぞ降るわれのいのちの瞑ぢし眼のかすかにひらき、痛み、雪降る 糸のごとくけむりのごとく衰へしわれの生命にふるへて、雪降る 旅人のからだもいつか海となり五月の雨が降るよ港に 海よ悲…

カイエ 4号

「カイエ」4号を熟読した。多彩な作品群は詩的なイメージを美しく立ち上げており、魅了された。また、巻末の西巻真の評論も読み応えがあった。 特に印象に残った作品から述べてみる。 とみいえひろこ あああなた、そんなふうに床を拭いては 金色橋がひたさ…

恒成美代子 第八歌集  『秋光記』

先を行くあなたに従ふ森の奥なつうぐひすの声がするのみ 恒成美代子『秋光記』を再読した。家族とすごす日々、とりわけ介護する母とのやりとり、そして歌人としての多忙な日々、そうした日常を細やかなタッチで、そして安定感をもって描いてゆく。読んでいて…