「上終歌会 01」を読む 続き
ふゆごもりだれにもわからぬことだけをわかることとし手を掴む夢
仲西森菜
自意識の世界を、リアルに語っている。結句がとてもリアルで利いている。
どちらかと言えば乾いている君に月の明かりも近づいてくる
ゆっくり、溜ながらはいってくる文体が内容に合っている。「乾いている君」を月が濡らしてくれるのだろう。
つらいとは言いたくなさを噛みながら噛みながら千切れてゆくうどん
中山文花
この作者の鋭敏な感覚と言葉の選択の上手さに引き込まれた。「言いたくなさ」はなかなか出てこない言葉。少し無理があるけど、その捻れ感がすごい。それをしぶとくひっぱって「うどん」で落とすのはほんとうに見事。
キリバスの朝の温度とよく似てるひとりとひとりの結ばれる指
森本奈央
「キリバス」という固有名詞の魅力がまず光っていて、「朝の温度」「結ばれる指」まで、とどこおらずに、素直に流れている感覚が気持ち良い。人とのつながりへの思いが伝わる。
夭折という語に惚れたわけじゃないコーヒーだってちゃんと苦いし
吉原知世
「夭折」という語へのだれしも抱く憧れ、を打ち消しながら、やはり打ち消しきっていないところが、とてもリアルな感じがする。とくに下句の「苦い」はうまく機能していると思う。
スポークの一本ずつに冬の陽をのせて漕ぎゆく急かるるままに
永田淳
先生の歌が、最後にでてきて、びっくりしました。
淳さんらしい、冬の爽やかな力を感じさせる作品です。自転車の加速してゆくスピード感。