眠らない島

短歌とあそぶ

2017-01-01から1年間の記事一覧

大辻隆弘 第八歌集 『景徳鎮』

かぎりなき遠さを保ちゐるごとく水辺にひらく夕べの合歓は 歌集をとおして圧倒的な重量感のある歌の嵩に押されそうになる。ときおり、ひかりが差しこむように美しい叙景歌が立ち上がっているのだが、それだけに影の部分の濃さが際立つことになる。この歌集…

足立尚彦歌集  『ひろすぎる海』

うつむけばひろすぎる海 見なくてもひろすぎる海 うつむいている みずみずしいこころがそのまま言葉に包まれているような歌。悲しみを詠みながら、読むものにぬくもりを残して消えてゆく。老いを詠みながら、少年のような憧れや含羞を垣間見せてしまう。そん…

大辻隆弘講演集

大辻隆弘講演集は刺激的である。収録されている内容は、今までに実際リアルタイムで聴いたものや、パピエシアンに何年間か連載されていたのを読んで知っていたものもある。しかしこうして一巻にまとめられると、大辻隆弘のなしてきた業績の厚みをあらためて…

三﨑澪   『日の扉』

花びらの盛り上がりまた盛り上がり押し出されくる幾片あはれ 『日の扉』作者は、奥付によると、1920年生まれ。今年で97歳になる。読んでからその年齢を確認して、驚きを禁じ得なかった。よくありがちな、「老い」に凭れた〈自在〉な歌ではない。読むも…

鈴木美紀子 第一歌集 『風のアンダースタディ』

夕暮れに流されそうだティファールの把手を握りしめているのに 鈴木美紀子は未来短歌会の加藤治郎選歌欄に所属している。このたび書肆侃侃房より歌集を上梓した。この作者の第一歌集を待っていたものは少なくないだろう。鈴木美紀子の歌には一首、一首に物…

近代短歌を読む会 第9回 前田夕暮『水源地帯』

前田夕暮 『水源地帯』を読む 〇参加者の三首選 うしろにずりさがる地面の衝動から、ふわりと離陸する、午前の日の影 自然がずんずん体のなかを通過するーー山、山、山 虹、虹。眼前数メートルの距離に迫って、窓硝子をすれすれにとぶ虹! レンズのなかの明…

藤井啓子 第一句集 『輝く子』

夜は星のために湧きたる清水かな 藤井啓子句集『輝く子』が出版された。藤井啓子は「ホトトギス」同人であり、平成7年には日本伝統俳句協会新人賞を受賞し、また朝日俳壇年間賞を二度にわたって受賞している実力派だ。今回はこの作者の第一句集であり、実に…

第8回 土屋文明 第一歌集 『ふゆくさ』

土屋文明 第一歌集『ふゆくさ』を読む 〇参加者の三首選 夕ぐるる丘の野分は草吹きて榛の木をふきていづくともなし 霜とけてぬれうるほへる黒き土土はひろがるゆふぐれの国 馬の湯に居る馬七つ日照雨に背のかけむしろみなぬれてあり 白楊の花ひそみ咲く木に…

第7回 近代短歌を読む会 『みだれ髪』

与謝野晶子『みだれ髪』を読む 参加者の三首選より 〇好きな歌 ほととぎす嵯峨へは一里京へ三里水の清滝夜の明けやすき 繪日傘をかなたの岸のくさになげわたる小川よ春の水ぬるき ゆふぐれを籠へ鳥よぶいもうとの爪先ぬらす海棠の雨 なにとなく君に待たるる…

大森静佳 「サルヒ」

たてがみに触れつつ待った青空がわたしのことを思い出すのを ひかりを孕んだ風のような言葉が体を脱けてゆく。こころが解き放たれる。いつのまにか悠久の大地と時間の真ん中にひとり立っている。そんなすがすがしさだけが残る。 大森静佳の「サルヒ」は小さ…