田丸まひる 『ピース降る』読書会報告 2
会場発言
1
・今の自分から読むと懐かしい感じがする。
30代女性の焦燥感があふれている。
どう生きるのか、どう選択するのかという葛藤がある。
恋人から「君」、あなた」に変遷してゆくなかで、愛に届いてゆく。
・自分は何をやっているのかという切実感
言葉のイメージを変換しながら、思いを受け入れる。
こころには水際があり言葉にも踵があって、手紙は届く
見える傷、見えない傷に手のひらをあてられながら見る窓の雨
生活の中に輪ゴムを拾うとき憎しみのほんとうにかすかな息吹
・言葉への思い、こころへの思いが豊か
檸檬水きみは言葉のすみずみに裏地をつけてつつんでくれる
・オノマトペがよく活きている。調べがなだらかになり。包み込むような感じ。
あやめあやめたぶんこれから繰り返すあやまちさえもわたしのものだ
・職業詠には対象を包み込むやさしさがある
・全体に前の歌集よりも歌の幅に広がりがある。
2
・生のなにげなさを歌にしている。
・『硝子のボレット』はひややかな目線があったが、今回の歌集はどんな人の命もいつくしむ姿勢が感じられる。
・前作よりも象徴性が高まっている。
・私と君の関係がにじむように詠んでいる
生き延びることを決めないきみも好きくずれてゆくのわたしのこころ
雨は檻、雨はゆりかご寒がりのきみをこの世にとどめるための
3
・ものごとの二面性を捉えている。君は私でもよい。檻はゆりかごでもある。
・傘の歌が多い。傘をとおして境界が溶けていく感じがある。
スクランブル交差点にも次々と傘が開いて、もう笑わなくていいかな
雨のあと匂いたつ花 きみがまた忘れていった傘を開けば
・タイトルの「ピース」は雪や雨の一粒。まぎれなさを主張している。
若いひとと軽くくくられクロッカスわたしはわたしのために笑った
4
・『硝子のボレット』は問いかけの形が多かった印象があるが、今回は体言止めの形がおおくとられている。
・クライアントとの関係も全力投球から、ゆったりと向き合う姿勢に変化している
・歌集全体に「冬」がよくつかわれている。かすかなネガティブ感がただよう
このひとも空から垂れているような姿勢で冬の氷菓をねぶる
・傷つく歌が連綿とつづくが、誰がとは言わない。言わないことで共感を得ている。医療の現場を詠うことの是非に関わる葛藤があるように思う。
5
・現代詩と短歌との行き来があり新しい形式を生み出している。
・シリアスな不思議な国の精神科医少女というワンダーランドである
・表現を韜晦し、あけすけに詠うわけにはいかないところがある。
・現代の病理を唄いながら人格の送還関係を捉えている
いくつかの冬をあなたと呼吸する 死にたいひとを殺せないまま
・斎藤茂吉『赤光』に「麦奴」という連作があり精神異常者を描写しているが、この歌集にはそういった対象を詠むことの現代のきびしさを感じる。
6
・暗さはあまり感じず、しあわせの欠片がふる小品集という印象があった。
・しがらみから解放されて、読後感がよい歌が多かった。
ほどけない微熱どうしてこの熱は言葉に変化しないんだろう
また老いを口にするねと笑われて天然水で飲むロキソニン
・プライベートなことや、心弱りは隠して凛としている。
約束をひとつかなえてもらえたらそれでいい冬を取り巻きながら
7
・生きづらさを感じる人に伝えるためのエールのよう。
感情をあらわすのが上手い
だってまたおいで待っているからねって言ったよね言ったよね言ったじゃないか
・自分に引き付けた職業詠に対人間のありようが出ている
・詠みにくいことを、からだ自体を詠みながら自分の受け止め方を出している。
8
・関係性がもたらす痛み、また関係性にありつづけねばならないことの苦しさ
こいびとの名前はわたしが呼ぶための詩(だったらいいな)西日の隙間
9 発音に意識が向けている。ひとつひとつの音の作りを意識した歌になっている。
〈最後に〉
1
・『硝子のボレット』は内向きで、自分との距離が0。『ピース降る』は自分を通して外の人を見ている。
2
思い付きで歌を作っている部分もある。
軽すぎる表現にはもっと慎重になるべき。