眠らない島

短歌とあそぶ

「パンの耳」1号

松村正直さんが西宮で開いている歌会の冊子がとどいた。「パンの耳」1号。14名のメンバー、それぞれの表現の多様さにおもわず引き込まれ、読んでしまった。15首の連作の中から、おひとり一首ずつ紹介します。
 
 
添田尚子
鉄瓶のお湯がふきこぼれるほどの愛でなければいらぬと思う
 
大気の湿りがそのまま体の息遣いのよう。思い切りのいい表現が魅力
 
升本真理子
山裾に緑の息を浴びながら脱皮していく夏の身体に
 
夏を迎える生命感が眩しい
 
佐々木佳容子
シマウマのお尻うふっと描かれたる壁 地下鉄の「動物園前」
 
多様な生き物の体臭がむんむんして楽しい
 
鍬農清枝
鳥が木に木が鳥となり夕焼けてけぶれるような公園をゆく
 
日常から非日常へのはばたきのポエジー
 
弓立悦
少年のほそき指さきにはさまれて四枚の翅はあおく燃えたつ
 
蝶のまぼろしのような美しさと少年のしずけさと
 
木村敦子
ひと漕ぎで大山までへも飛べそうなぶらんこゆれる白き砂浜
 
山陰のうつくしい砂浜に揺れるぶらんこは郷愁
 
甲斐直子
句跨りのように先へとなだれ込む恋あり青葉がゆさゆさ揺れる
 
恋が始まるよろこびが弾けている
 
小坂敦子
みどり児はガーゼの産着にくるまれてボクサーのごと身がまえており
 
赤ちゃんをこんな風に描いたのは初めて、新鮮

岡野はるみ
 夏の陽を今日もたっぷり浴びた傘 病室に入り涼しさに置く
 
病身と健康さの温度差、置かれる傘がシンボリック
 
林田幸子
電柱の細き陰さえうれしくて水まんじゅうを買いに行くなり
 
酷暑の夏だった、水まんじゅうって、涼しそう
 
河村孝子
水音を聴こう川辺にうずくまり耳ひとつずつ流してしまう
 
とても繊細な水音がき聞こえそう。感覚の捉え方にはっと驚く
 
乾醇子
斜めより見るか私の生きざまをセンターポールの旗はねじれて
 
いどむような口調にパンチが利いている
 
吉田美子
あたたかかいタオルで拭うわが父のまる顔なればまあるく拭きぬ
 
無理のないやわらかな表現がゆきとどいている
 
松村正直
どこへ向かうわけでもなくてまたここに戻り来る舟、ふたり乗り込む

はたして舟の行くさきは…