鎮めるちから
ここだった 歌を集めている本の日の暮れ方のあかい湿原
若い雲が毛羽立ちながら動くとき深いところの雲にゆく鳥
あかつきの闇のむこうをしわぶいて男がとおりすぎるまでの間
半欠けの月へと汚れた黄の花をアワダチソウは持ち上げている
ピクルスのきつく詰まった瓶詰めの蓋だったのに瓶を無くした
立ち上がり波はもつれてあっけなく平らな石のすきまに消える
どの音が沈んでいったか桟橋のあなたのあとをあるく靴音
低い空に隠されている対岸へ積み荷を載せて舟は漕ぎだす
簡単に眠ってしまう 昂ぶって波だつ海の鎮めるちから