眠らない島

短歌とあそぶ

未来10月号

    静かなジャム
 
光太郎の詩を読んでいる 光太郎は死んでいるから安らいで読む
 
紐育・倫敦・そして巴里だより まだ原発はどこにもなかった
 
さみしくて燃え出しそうな痩せぎすの「出さずにしまった手紙の一束」
 
きりぎしに立つ精神が書いている智恵子さんのあさのひかりを
 
ありがとうと書かれた遺書のきれぎれの「ありがとう」も死んでしまった
 
「たんと苦しみなさい」ひどい言葉をぶちまけてもうフクシマに帰れぬ智恵子
 
ほんとうに切りたかったの? 色紙を、切り取られゆくあなたの空は
 
溶けだしたアイスクリームってことにしておこう ひどい運命を
 
先はないのだからベリーよ明けまでにどうか静かなジャムにおなりよ
 
つきつめて入りこもうとしていたが、奧のほうから雨霧がきた