眠らない島

短歌とあそぶ

未来5月号

 
           蜜をうめこむ
 
 
いきものに蜜をうめこむ月を待ちわたしは朱い肝臓をもつ
 
チャウダーに匙を沈めてうつくしい蠣のからだを押しつぶすのみ
 
湯にうかぶ木綿豆腐をすくい上げなまなまとして息を吐きあう
 
いびつなる雪の残っている谷をもとめるように水は落ちくる
 
けだものの匂いに清められている水は仰向きながら流れる
 
どの粒もおさない雪におなりなさい紺青の夜のふかい高みに
 
うすぐらい夢に立っている父のうしろに結露している引き戸
 
低い雲が動こうとせぬ 背中から力が抜けるように暮れゆく
 
走りくるみぎわを波は抱くようにしてその果てをくずれるばかり
 
つやめいた黒マジックの叔父さんの文字は流れる冬の手紙を