眠らない島

短歌とあそぶ

未来11月号

 
  みずうみだった
 
白線に触れようとする夏草の穂をよけながら自転車を漕ぐ
 
ありえない記憶のなかで仰向けに雨に打たれるみずうみだった
 
中陰をしるす葉書を置いたまま死んでしまった人といる夏
 
届かない席にいるのでヴィネガーをかたわらにいる男に回す
 
硝子器のベビーリーフにふりかかる鱗のにおう厚切りの風
 
一艘のあわれな小舟などはない 蘆辺という制度はあったはずだが
 
おまえは榎木だろう 日盛りにあおざめながら黙っているのは
 
道ばたのあざみの花はあぶないなあ ドルの投げ売りされる真夏日
 
対岸の倉庫のうえに夕焼けを撒き散らしている 素知らぬ顔で
 
きりぎしの踵をつかんでいる海は夢をみるのが怖いのだろう