眠らない島

短歌とあそぶ

『モンキートレインに乗って72』


「昭和十九年の会」の存在は知ってはいたが、どのような活動をしているのか全く無知だった。このたび、『昭和十九年の会アンソロジー  モンキートレインに乗って72』が上梓された。大島史洋のあとがきによれば、昭和十九年の会は、昭和十九年生まれの歌人の集まりである。三枝昂之、晋樹隆彦、小高賢の発案で一九八〇年に発足している。一九八二年にアンソロジー第一集が発行され、今回は第五集目であるらしい。第三集のときには、十九年の会に連動して、大阪で坪内稔典が中心となり「サルの会」ができ、合わせた形になったようだ。今回は四五名もの参加者があり、四三四頁に及ぶ。
 
この本の厚さにもさることながら、巻末の詳細な活動記録に圧倒された。一九八〇年発足のころはほぼ毎月、レベルの高い勉強が続いている。一九八九年には「大いなる次代への架橋」~「昭和五十年代短歌の遺産と継承」と題してニューウェイブと呼ばれた若い歌人達を交えてシンポジウムをしている。
 この活動記録を見るかぎり、この会に集まったメンバーは、高い意識をもって、時代の節目を見極めながら、研究、評論活動を展開している。おそらくは現代短歌に自分の生き方を重ねあわせようという熱い思いが共有されていたのであろう。それは世代意識を越えて、評論の沃野を拓き、現代短歌を創作の面でも支えてきているように思う。
 このような会が三十年以上にわたって続いてきたことに畏敬の念を抱かざるをえないし、また羨望も感じる。こうした会がどれだけひとりひとりの会員に力になったことか。本当に眩しいようなアンソロジーである。
 
 アンソロジーにはひとり三十首の連作が掲載されている。そのあとのエッセイも歌と合わせて読むと楽しい。
ここでは印象に残った歌を引用して紹介したい。
 
                        足立晶子
夕刊の上に郵便その上に朝刊のあり時間が積もる  
                        内野信子
透明なエレベーターが昇りゆく熊のようなる准教授乗せ   
                                            大島史洋
目にみえぬものは変わらぬ 目に見えるものは変わる 詭弁だ   
                        草田照子
そこにゐし不運のあればをらざりし不運といふもあらむこの世は    
    小谷博泰
島ひとつ遠くありしが車窓おおう木々にたちまち見えなくなりぬ
    小橋芙沙世
もうゐない人の書を読みもうゐない人のこゑ聴く時間したたる   
晋樹隆彦
かたはらに静かに流るる川の音ここぞかしかのとこしえの川
丹波真人
もの読みてこもれる部屋のどこかにて不意に何かのくづれる音す  
中野昭子
濡れるほど川音きかむ武庫川にゆきて河原の石にすわりて  
林田恒浩
サハリンに()れて茫々 ( ぼうぼう ) 東京の雪あらぬ冬を越ゆいくたびか