批評会報告 会場発言5
○ 岸原さや
歌集をとおして「わたし」という表現がすくない。
「わたし」が出てくる歌集を読むのはしんどい。
「わたし」は本人が思っているほど特殊でもない。
この作者は覚めていて、世界が分かっていて
私などなにほどのものでもないというところから世界を見たとき
海はどう見えるのか、ひかりはどうだろうか、を
口語でどう歌うのかを探っている。
大人の作者である。
わかりにくさを保存しながら詩に託していく。
分からない詩がいい。
分かる詩には帰らなくてもよいが
分からない詩には何度もかえりたくなる。
○ 山下泉
全体に欠落感やそこからくる開放感の「ようなものを感じた。
事前と事後という時間のながれのなかで長いスパンで歌っている。
震災が影響しているのか
存在の終わってしまったあとを見ている。
手のひらに穴を見るように自分の先にある穴を見つめている。
老年をひかりとして描かれ、生きる勇気をもらった。
「おたがいの名前を覚えているのだしこれから長い運河をつくる」
の「だし」の口語はおもしろい。全ては喪われても、名前だけは残る、
分かっているところから始めようということか。